
10月に入り、「最近食事を残す方が増えた」「ご利用者の元気がない気がする」と感じることはありませんか?
秋晴れで過ごしやすい日が増える10月ですが、実は朝晩と日中の寒暖差が1年の中で最も激しくなる時期でもあります。この季節の変わり目は、高齢者の体調や食欲に大きな影響を及ぼします。
本記事では、高齢者が秋に体調を崩しやすい理由や、介護施設での日々の食事ケア・献立作成に役立つ「秋バテ予防と免疫力アップのポイント」を分かりやすく解説します。
10月に高齢者の体調が崩れやすい理由とは?
なぜこの時期に体調が悪くなったり、食欲が落ちたりするのでしょうか。
その背景には、気温変化による自律神経の影響や、夏の疲れの蓄積などが大きく関係しています。
朝晩と日中の寒暖差(7℃以上)による自律神経の乱れ
人間の体は、自律神経(交感神経と副交感神経)の働きによって体温や代謝を調整しています。しかし、1日の気温差(前日比や朝晩の差)が7℃以上になると、体温調整のために自律神経が過剰に働き、疲労が蓄積しやすくなります。
特に高齢者は加齢に伴い自律神経の働きや体温調節機能が低下しているため、寒暖差の影響をより強く受けてしまいがちです。その結果、全身のだるさや頭重感、胃腸の働きの低下を引き起こす原因となります。
夏の疲労蓄積「秋バテ」による食欲不振・消化機能の低下
「秋バテ」とは、夏の冷房による冷えや冷たい物の摂り過ぎで弱った胃腸に、秋口の寒暖差ストレスが加わって起こる心身の不調です。
身体的な疲労や脱水が中心の「夏バテ」に対し、「秋バテ」は自律神経の乱れから倦怠感や気分の落ち込みといった精神的な不調が現れやすいのが特徴です。
この時期に食欲が落ちてしまう背景には、この「精神面(意欲)」と「身体面(胃腸)」という2つの側面からの影響があります。
・精神面からの影響(意欲の低下)
自律神経の乱れから起こる気分の落ち込みや気力の低下は、特に高齢者において「食べる意欲(食欲)」の低下に直結します。
・身体面からの影響(胃腸機能の低下)
自律神経の乱れにより胃腸の蠕動運動が鈍くなり、消化酵素の分泌量も減少します。その結果、「お腹が空かない」「食後に胃がもたれる」といった不快感が生じます。
この「食べる気力が湧かない」精神的要因と、「消化・吸収がスムーズにいかない」身体的要因が重なることで、著しい食事量の低下を引き起こします。
食事量の低下が引き起こすフレイル・免疫力低下の悪循環
食欲不振によって食事量が落ちると、エネルギーやたんぱく質が不足する「低栄養状態」に陥ります。低栄養は筋肉量や身体機能が低下する「フレイル(虚弱)」を進行させるだけでなく、免疫細胞の生成を滞らせ、体のバリア機能を低下させます。
秋に体調を崩して低栄養状態のまま冬を迎えてしまうと、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症にかかるリスクが跳ね上がります。
そのため、今の時期から食事による適切なアプローチを行うことが非常に重要なのです。
「秋バテ」予防と免疫力アップに欠かせない3大栄養素&食材
秋バテを予防し、冬に向けた感染症予防の土台を作るためには、日々の献立に特定の栄養素を意識して取り入れることが効果的です。特に意識したい3つの栄養素とおすすめの食材を紹介します。
①たんぱく質|筋肉量維持と免疫細胞(抗体)の材料
たんぱく質は、筋肉の維持・形成に欠かせない栄養素です。さらに、体内に侵入したウイルスなどの外敵と戦う「抗体(免疫グロブリン)」や「免疫細胞」そのものの主成分でもあります。不足すると抵抗力が落ち、風邪や感染症にかかりやすくなってしまいます。
主な食材:豚ヒレ肉・豚もも肉、鶏肉、牛もも肉、白身魚、卵、豆腐・納豆・豆乳などの大豆製品
★ポイント
高齢者の場合、一度にたくさん食べられないことが多いため、毎食「片手の手の平に乗るくらいの量」の主菜(肉・魚・卵・大豆製品)を取り入れるよう意識します。
②ビタミンB1|糖質をエネルギーに変え疲労回復を促進
ビタミンB1は、食事から摂取した糖質を効率よくエネルギーに変えるために不可欠な栄養素です。不足すると体内に疲労物質が溜まり、だるさや食欲不振を引き起こします。
主な食材:豚ヒレ肉・豚もも肉、玄米・胚芽米、うなぎ、たらこ、枝豆
★ポイント
豚肉はビタミンB1がトップクラスに豊富です。アリシンを含む玉ねぎやニンニク、ニラと一緒に調理することで、ビタミンB1の吸収率が大幅に高まります。
③ビタミンA・C・E|粘膜の保護と抗酸化作用でバリア機能を維持
ビタミンA・C・E(エース)は、強い抗酸化作用を持ち、互いに働きを補い合う栄養素のトリオです。
ビタミンA(β-カロテン):鼻やのどの粘膜を健全に保ち、ウイルスの侵入を防ぎます。(レバー、かぼちゃ、にんじん、ほうれん草)
ビタミンC:白血球の働きを高め、免疫力を強化します。(さつまいも、ブロッコリー、柿、キウイフルーツ)
ビタミンE:末梢血管を広げて血行を促進し、体の冷えを防ぐほか、細胞膜の酸化を防いで若々しさを維持します。(かぼちゃ、アーモンド、アボカド)
★ポイント
特に「かぼちゃ」や「さつまいも」は10月に旬を迎え、ビタミンA・C・Eがバランスよく含まれる優れた食材です。通常ビタミンCは熱に弱い性質がありますが、さつまいものビタミンCはでんぷんに守られているため加熱調理をしても壊れにくく、効率よく補給できるメリットがあります。
食欲がない高齢者でも無理なく食べられる調理・献立の工夫
栄養バランスの優れた献立は、美味しく召し上がっていただけて初めて本来の力を発揮します。
食欲が落ちやすいこの時期は、少しの工夫で「無理なく楽しく食べられる工夫」を取り入れていきましょう。
香りと酸味(生姜・しそ・酢・ごま)で食欲を刺激する
食欲がない時は、香りや酸味などの「アクセント」を効かせるのが効果的です。
香味野菜・スパイス: 生姜、しそ、茗荷、すりごま、少量のカレー粉や七味唐辛子などを加えることで、香りが食欲をそそります。特に生姜には体を温め、胃腸の働きを活発にする嬉しい効果もあります。
控えめな酸味: ぽん酢やレモン汁、黒酢などを薄味の出汁と合わせることで、唾液や胃液の分泌が促され、さっぱりと食べやすくなります。
温かい汁物や「とろみ」で胃腸への負担を減らし、喉ごしを良くする
体が冷えると胃腸の動きがさらに鈍くなってしまいます。
食事の最初に温かい汁物を:最初に温かい汁物を少量口にすることで、胃腸が温まり消化の準備が整います。
・あんかけの活用
パサつきやすい魚(秋鮭やタラ)や鶏ささみは片栗粉をまぶして加熱、「出汁あん」をかけることで喉ごしが滑らかになり、食べやすくなります。
・具だくさんスープ・ポタージュ
にんじんやきのこ類、かぼちゃなどを柔らかく煮込んだ具だくさん汁やポタージュなら、食欲がない日でも一口で複数の栄養素を効率よく補給できます。
1食分を無理に食べさせず「高栄養な補食・おやつ」でカバーする
一度に規定量を食べきれない場合は、3回の食事だけにこだわらず、おやつ(間食)の時間を有効活用した「補食」の考え方が大切です。
★手軽な高栄養おやつのアイディア
・スイートポテト風マッシュ:さつまいもやかぼちゃのマッシュに牛乳・練乳を混ぜ、エネルギーとおいしさをアップ
・高たんぱくプリン:無調整豆乳やきな粉を活用し、手軽にたんぱく質を補給
・豆腐入り蒸しパン:生地に豆腐を混ぜ込むことで、しっとり柔らかく仕上がり栄養価もアップ
まとめ:施設全体で取り組む冬への土台づくり
寒暖差対策や秋バテ予防は、単にその時期の体調を整えるだけでなく、これから訪れる冬場の感染症(インフルエンザやノロウイルスなど)に対する予防と体力維持のための重要な土台作りです。
「夏の疲れ」と「寒暖差による自律神経の乱れ」が重なるこの時期だからこそ、日々の食事で適切な栄養補給を行い、調理のひと工夫で食欲をサポートすることが求められます。
・たんぱく質・ビタミンB1・ビタミンA/C/Eを意識した食材選び
・生姜や出汁の風味が効いた温かい料理で胃腸をケア
・食べきれない場合は高栄養なおやつ(補食)でフォロー
日々の食事提供や栄養管理において、ぜひこれらのポイントを施設での献立作成や調理工夫に役立ててみてください。
※参考文献
奈良県医師会 「寒暖差疲労」とは
小林弘幸. 「なんとなく不調」 が消える自律神経の整え方. 宝島社, 2022.

【監修者】河野 友美
クックデリ株式会社 開発部 献立管理課
大学では栄養学の専門知識を修得後、神経筋疾患の専門病院や大学病院で管理栄養士として多くの患者様の栄養管理に従事。
そこで培った臨床経験と、フードコーディネーターとしてのスキルを活かし、現在はクックデリ株式会社の商品開発部にて、栄養バランスと彩りを両立させた献立の企画に携わっています。
【保有資格】





