
既存の言語聴覚士の枠組みにとらわれない食支援にまい進する
川端恵里さんにお話しをお聞きしました。
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Profile EatCareクリエイト 代表 川端恵里さん 言語聴覚士、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士、嚥下食調理技能認定者、介護食士、介護支援専門員、介護食アドバイザーなど。 |
Q EatCareクリエイトの事業内容を教えてください。
30年近く介護施設や病院をはじめ、地域住民のフレイル予防など、さまざまな場面で言語聴覚士として関わってきましたが、一貫してきたのは、お口の健康を通じたウェルビーイングです。
「どんな人にも〝食べれた!〟の感動を味わってほしい」と、2022年、イートケアクリエイトを開業しました。
嚥下食の作り方だけでなく考え方、介護する方の嚥下機能とのマッチング、介護者の調理スキルや状況、ご自宅のキッチンの動線などをふまえて、どうしたら持続的に食べられる支援ができるかをお伝えするのがイートケアの料理教室です。言わば、評価→食形態→調理→食事介助→生活までを一体的に考えた支援をコンセプトに掲げています。
あわせてレンタルキッチンで嚥下食を提供する「ハピネスカフェ」の開催、ご自宅に訪問する出張料理教室などにも力を入れています。

▲嚥下食とは思えないような本格的で見た目も美しい和食メニュー
Q 言語聴覚士の方による料理教室はめずらしい取り組みですね。
現場で働いていたころ課題に感じていたのは、食べることに困難がある方に対する支援の乏しさです。特に在宅においては、退院時に栄養食事指導やリハビリテーションの指導を受けたとしても、それらを介護者がすべて理解して実践するというのは相当難しいのではないでしょうか。多くの介護者が、嚥下食を見たこともなければ食べたこともないなか、退院してきた家族を目の前に、今日の晩ご飯から途方に暮れるといった場面にぶち当たっているのです。
食べられない家族の前では、おいしそうなご飯が紹介されているテレビをつけなくなったり、罪悪感から好きなものを食べることができなくなる介護者が多くいます。ご自身の食事は、おいしそうな匂いが漂わないおにぎりやバナナなんかを陰に隠れてササっと済ませるようになり、次第に家のなかから食べ物の気配が消えていくのです。誤嚥と窒息を回避しなければならないというプレッシャーも介護者の肩に重くのしかかり、結果的にお手上げ状態になってしまうケースを見てきました。これを解決したいと思ったのです。
料理教室には、一般の介護者のほか訪問看護ステーションの管理者やケアハウスの施設長、訪問リハビリを行っている言語聴覚士、医師、病院の管理栄養士など、さまざまな職種や立場の方が参加されます。一緒に嚥下食を作りながら「在宅ではこんなことに困っているんだ」とか「退院時の指導を家庭で実践するのはこんなに難しいんだ」など、ざっくばらんな会話を通じて相互理解を深める機会にもなっています。

▲料理教室では嚥下食づくりに使う材料の購入先なども案内している
Q 嚥下食づくりのポイントを教えてください。
人は過去に食べてきた記憶とマッチングしないものは、食べ物と認識することが難しいといわれています。そのため嚥下食も、美しく、食欲をそそるような見た目であることは大前提です。たとえば人気が高いお寿司の嚥下食ですが、ミキサーにかけてしまうと変色して本来の魚の色が損なわれてしまいます。当料理教室ではミキサーを使わず滑らかな食感に仕上げる加工法を採用し、ゲル化剤などの添加物も入れずに舌で潰せるほどの食感にしています。
盛り付け方や器選びも重視しています。普段、家庭の食卓や飲食店で提供される料理を思い浮かべても、冷たいトマトならば涼し気なガラスの皿に盛ることが多いでしょうし、焼き鳥なら熱々の状態が逃げづらい少し厚めの焼き物のお皿に並べられてきますよね。
何となく嚥下食だからメラミン食器に盛り付けるといったセオリーがありますが、そうしなくてはならないというルールはありません。認知症状のある方はお皿を割ってしまうといった思い込みも、手から滑らないような工夫をしたうえで料理に適した器を選び、その方が大切にしてきた暮らしを表すような盛り付けをすることで、大半の方が自然と丁寧に扱うようになります。「認知症だからできない」という先入観が、「雑に扱われた」という印象を相手に与え、結果、雑な行動を招いてしまう可能性もあるのです。
可能な限り、その方の食事の記憶や経験にも近づけるような工夫をすることが、その方の〝食べたい〟という気持ちを呼び覚ますきっかけの一つになると考えています。

▲目にも鮮やかな手作りの嚥下寿司
Q 食事介助がうまくいかないとき、まず見直すことは何ですか。
食事というものは、義務に感じたり、〝頑張って摂取する〟ものではありません。誰かとおしゃべりをしながら、故郷の味を思い出しながら、いつの間にか食べ終わっているというのが本来のありかたであると思っています。
ご利用者が食べてくれないと「認知症だから」「食形態が合わないから」とすぐ結論づけてしまっていることはないでしょうか。思わず「食べたい」という欲求がわいてくるような環境を本当につくれているか、いま一度、振り返ることが大切です。本人の心が動くような環境をいかに作れるかどうかが、食事ケアの真髄であると言えます。
お口を背けてしまう人には、必ず背ける理由があります。それが病気の影響によるものかもしれませんし、それまでの習慣や地域性によるものかもしれません。介助者はご自身の感性をフル活用して根気よくアセスメントし、相手が能動的に食事のひとときに参加できるポイントを見つけてほしいと思います。
Q 展望を教えてください。
これからの介護現場では、人材不足や厨房運営などの課題に対応しながら、食事ケアの質をどう守るかが重要になります。完調品やDXによる効率化と、一人ひとりの「食べたい」を大切にすることは、相反するものではありません。効率化によって生まれた時間や人の力を、観察や対話、個別の食支援へ還元していく。厨房や施設運営を持続可能にすることと、食べる喜びを守ること。その両立が、これからの介護に必要だと考えています。
――ありがとうございました。
川端先生が考える🍳施設における完調品利用のポイント🍳
✓完調品は「手作りの代わり」ではなく食支援の選択肢を広げるもの
完調品、直営厨房での調理、家庭的な手作りには、それぞれメリット・デメリットがある。どれか一つを正解とするのではなく、施設の人員体制や利用者の状態、食事の目的に合わせて柔軟に組み合わせましょう。
✓商品区分だけでなく「その人に合っているか」を見る
同じ嚥下調整食でも、味、硬さ、まとまり、口腔内での変化などは異なります。表示や区分だけで判断せず、実際に食べる方の嚥下機能、食べ方、嗜好に合っているかを確認しましょう。
✓完調品やDXで生まれた時間を「人にしかできないケア」へ還元する
完調品の導入や発注・帳票作成などのDX化を図る目的は、業務負担軽減や省人化だけではありません。生まれた時間を、食事場面の観察、食形態の見直し、会話、食事介助など、人にしかできないケアの時間にあてましょう。
✓「完調品」と「手作り」は場面に応じて柔軟に取り入れる
日常の食事は完調品を活用して安定した提供体制をつくりながら、誕生日や行事食、本人がもう一度食べたい料理などには厨房や手作りの力を活かすなど、効率化する部分と人の手をかける部分を選ぶことが、これからの食支援には必要です。
✓メーカー・施設・専門職で一緒により良い食事をつくる
味、テクスチャー、量、盛り付けやすさ、使い勝手など、実際に利用したからこそ分かる情報をメーカーへフィードバックする。メーカー、施設、専門職がそれぞれの強みを持ち寄ることで、より良い商品、より良い食支援につながります。




